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2011年 10月 16日

樋口一葉と若尾逸平

 明治24年11月に発表された樋口一葉の随筆「森のした艸」の中で一葉は若尾逸平に言及している。

【樋口一葉の随筆『森のした艸』の一節 春陽堂文庫「文範と随筆 樋口一葉全集第三巻」・昭和9年6月15日発行より】
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【概訳】
『若尾が甲州から商売のため江戸に出立した斉に、八王子近辺の宿屋に泊まった際、夜中に隣室の二人ずれが話す甲州という言葉が耳に入り「最近、横浜沖に数多く貿易のために訪れる外国船は水晶を特に高価で求めている」旨の会話を聞くと、いち早く甲州に戻り、大量の水晶屑を廉価で求め、横浜で外国商人に高価で売りさばき、それを基に更なる富を得て、明治23年の国会開設時には多額納税者として貴族院議員に互選された。甲州から志しを抱いて江戸に出立したのは若尾が30歳余の時期であったらしい。』

【若尾逸平】
f0191673_13581146.jpg若尾逸平は文政3年12月6日に巨摩郡在家塚村(現在:南アルプス市)に生まれ、天秤棒一本で甲州と江戸、横浜の間を品物を担いで往復して利益を得、横浜開港期には貿易の一角に入り生糸、水晶等を甲州から運び外国商人に売り、また、明治維新の混乱期ら変動の激しい相場を利用し富を増大させ、いわゆる甲州財閥の巨頭の一人となり、後に山梨県内第一の富豪といわれるようになっている。




【若尾逸平の墓(甲府市・長禅寺)】
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 大正2年9月7日、若尾は94歳の天寿を全うした。若尾の死後に刊行された『若尾逸平傳』(大正3年刊・内藤文治良編著)には「万延元年12月26日のこと幾造(若尾逸平の弟)は生糸の売り込みに出かけたところ、そこの商館で何か光る石片を二三人の商人から買い取るのをみて、幾造はよそながら、注意深くみると、それは水晶のくずであった。幾造は黙ってみていたがその値段の高いのに心ひそかにはっとして驚いた。幾造はそのまま売り込みのため八王子に来ていた兄(若尾逸平)のもとに走り、その日の内に兄弟は甲州に帰って御嶽村に急いだ。この頃、御嶽村では黒平で採取した水晶の原石を数戸の細工人が玉や印材等に細工をしていた。逸平兄弟はこの細工品を採った用途のない水晶の屑を殆どただのような値段で買い取り、これを麻袋に入れて天秤棒が肩にめり込むほど担いで甲府に戻り、幾造が横浜を出発し、わずか中一日おいて28日の晩には再び横浜に着き、その足で逸平兄弟は水晶屑を買い入れていた異人館を尋ね、百斤について8~9ドル程の価格で売りさばいた。意外なほどの利益を得たため次から次に甲州から水晶屑を運び、その年の暮れから翌年の正月にかけた十数日の間に1500円の利益を得、このことを称して逸平兄弟は水晶大尽と呼ばれた。」といった内容が記されている。


 更にこの逸話にも伏線があり、『山梨の百年』(昭和43年、NHKサービスセンター甲府支所刊)には「若尾逸平傳を見ると横浜貿易で一旗あげようとしていた逸平が、旅籠屋の隣座敷の客が外人が水晶をいたく好むのをみて、これから買出しに行くのだというひそひそ話しを立ち聞きして、自分が先回りして飛びかえり、甲州の水晶を全部買い占めて巨利を得たというふうに書かれている。ところが、この話の裏話が実は篠原家(甲州屋篠原忠右衛門家)に伝わっている。逸平が立ち聞きしたのは甲州屋で、立ち聞きされたのは忠右衛門と次男の直太郎で、帳場でたまたま甲州産水晶を買ってきて外人に売ったなら儲かるだろうと投機的な話をしていたのを聴かれてしまったのだという。その当時逸平は、甲州屋へ委託荷を天秤棒でせっせと運んでいたのである。」


 「森のした艸」の逸話は、作者である樋口一葉が当時の社会に広く伝わっていた話題から聞き及んだものなのか、両親が甲州生まれであったことから甲州における地域の話題として耳にした逸話であったのだろうか、若尾の死後に発刊された前述の伝記である『若尾逸平傳』に同様の逸話が記されている事実を踏まえると、樋口一葉が生前に両親の故郷でもある甲州の地を踏んだことがあるのではといったことにも関係する事項であり、樋口一葉が若尾の逸話をどのようにしてしることとなったのかが非常に興味のあるところである。




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by kaz794889 | 2011-10-16 14:08 | 樋口一葉 | Comments(0)


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